高橋 佳佑

Keisuke Takahashi

職業:通訳
北海道日本ハムファイターズ スペイン語通訳(2023年より)

プロフィール

通称:カミーロ
出身地:神奈川県鎌倉市
生年月日:1998年7月14日

経歴:
・橘学園高等学校 国際コース
在学中にニュージーランド・クライストチャーチへ1年間語学留学。人生初の海外で野球を経験する。
・神田外語大学 イベロアメリカ言語学科 スペイン語専攻
メキシコ・グアダラハラに1年間語学留学。
留学中にはメキシコ、ドミニカ共和国、アメリカ、キュラソーで現地の野球を観戦し、ラテン文化と野球への理解を深める。

・アルファーコーポレーション(メキシコ・ハリスコ州)
現地工場でスペイン語通訳として勤務し、実践的な語学運用能力を磨く。

・千葉ロッテマリーンズ
球団通訳としてプロ野球の現場を経験。

・北海道日本ハムファイターズ
2023年よりスペイン語通訳としてチームに加入。
アリエル・マルティネス選手をはじめとするスペイン語圏の選手たちのサポートを担当。

現在は、アリエル・マルティネス選手をはじめとするスペイン語圏出身の選手たちのサポートを担当しています。
ヒーローインタビューなどでは、選手の言葉のニュアンスやリズムを大切にした通訳がファンの間でも注目されており、明るく温かい人柄で、選手との信頼関係を築いています。


1.現在のご活動について

現在、どのようなお仕事をされていますか?

プロ野球選手の通訳(北海道日本ハムファイターズ)

なぜ通訳を目指しましたか?

① 小学生の時からプロ野球観戦が好きだったから。
② 中学時代、将来は人の夢・未来を応援する役回りに回りたいと強く思ったから。
③ 高校時代、外国人と直接コミュニケーションを取りながら仕事したいと思ったから。
④ 自分自身が「外国人」となった経験(留学)を活かして、今度は日本で海外からの仲間を迎え入れ、彼らの日本の生活をサポートしたいと思ったから。

通訳として活動される中で、
日々やりがいを感じる瞬間はどんなときですか?

一番はやはり、外国人選手を含む周囲の仲間から感謝された時ですね。
「今、この人は◯◯の状況にいるから、自分が△△してあげたら喜んでもらえるかな」とその場その場で考えながら行動に移そうとするので、この試みによって相手から「助かったよ」と言ってもらえたら、これはこれはこの上ない幸せです。

2.語学との出会いと学びの原点

語学に興味を持った最初のきっかけは何でしたか?

2015年、ニュージーランドでの留学時代、日本人以外の人とほぼ初めて意思疎通を試み、地元では巡り会えないような「新しい考え方」と巡り会えた時に、本格的に語学に興味を持ちました。
自分の生活圏内に存在するアイディアのみが常識なのではなく、世界中のあらゆる常識をかき集めることで、自分の中の「善し」「悪し」の基準を徐々に築き上げることができるのだろうと実感した際、いずれは複数の語学を習得し、国籍関係なく、1人でも多くの人と意思疎通をできるようになりたいと思いました。

どのような環境で語学を学び始めたのですか?(例:学生時代・留学・独学など)

1番の大元は、幼少期に母が英語で『機関車トーマス』や『ボブとはたらくブーブース』などといったこども向けの作品を繰り返し繰り返し英語で見せてくれたことですかね。
日本生まれ・育ちですが、ディズニーの音楽の歌詞も日本語より英語の方がしっくりきます。(笑)
自分で勉強しようと思って英語を学習し始めたのは中学の義務教育ですが、母のビデオのおかげで「何から何まで初めてで、右も左もわからない」と言う事態になりませんでした。

語学を習得する上で、意識していたことや大切にしていた習慣はありますか?

まず第一に、文法を早く網羅することです。
ジムでの筋肉トレーニングでも、いくらたくさんのマシンを使って筋力を上げようとしても、そもそも骨がなければ筋肉がつく場所がありませんよね。
語学も同じで、骨となる文法を完全に習得すれば、そこから筋力UPを試みるように単語を覚えていき、文法に当てはめていけば良いのでは、と言うのが僕の考えです。
単語の学習には終わりがない一方、文法の学習には必ず終わりがあります。
「語学における骨」であり、学習に終わりがある文法から先に取り掛かるのはいかがでしょうか。

 また、言語を学ぶ際は、そのことばが話されている地域の歴史を学ぶことが僕の中での決まりごとです。
新書一冊分の知識があるだけで、ネイティブ話者たちの一般常識や価値観の根源が結構見えてきます。
歴史とは、その国の生活、文化、宗教、学問、政治、経済、食べ物のルーツです。
これらに少し触れるだけで、ネイティブ話者たちのすべてを理解するには至りませんが、彼らにとっての常識を理解するためのヒントを見つけることができるのです。

 今僕がネイティブレベルで日本語を話せる理由は、日本の文化圏で日本語に26年間(今の私の年齢)浸ってきたからです。
しかし、英語を流暢に話せるようになるためにこれからイギリスに26年間、スペイン語のためにスペインに26年間、さらにロシア語のためにロシアにも26年間滞在するとなると、私がこの新たな3言語を習得する頃には104歳です。
さすがに効率が悪すぎますね。
けれども、言語の裏に隠れているバックグラウンドに着目する頃は必要不可欠です。
そこで、母語よりも短い期間でことばを学ぶためにも、歴史を学ぶことはとても有効であると思います。

モチベーションを維持するために工夫していたことがあれば教えてください

「夢」です。
夢は僕の人生におけるテーマです。その夢を叶えるために何語をおおよそどれくらいの期間で学ぼうとするかをまず考えるようにしています。夢を叶えようとあらゆる工夫を日々施していくとが、僕の人生における生きがいなので、夢を叶えるために語学が必要になるのであれば、たとえ誰かにやめなさいと言われても、永遠に学習したくなってしまいます。

 語学は、奥が深く先が長い学びでありながら、1日ごとの進歩を実感することが難しいです。
昨日よりもどれくらい上達したかを測りにくいにも関わらず、自分が満足行くレベルに到達するまで学習し続けるには、その言語をつかって何をしたいかを明瞭化することと、語学習得までの過程をどのように楽しむかを考えることがカギであると私は考えます。

語学を学ぶ中で、「世界が広がった」と感じた経験や印象的な出来事があれば教えてください

2021年の春に、初めて通訳の仕事に就いた時です。
大学から始めたスペイン語を使ってご飯が食べれるようになった時、「世界が広がった」と思いましたし、食べているものをより美味しく感じました。(笑)

語学的な話から逸れてしまうのですが、スペイン語という言語は私に、昨日までできなかったことでも、習得までの過程を楽しみながらあらゆる工夫を積み重ねていくことで、いずれは新しい場所で活躍するチャンスが生まれる、ということを教えてくれました。
スペイン語を学ぶ前、もし私が公の場で「スペイン語を使って通訳になりたい」と言っても、全員がその可能性を信じてくれないでしょう。
けれども、スペイン語を通して僕は、「今はできないことでも、自分には試行錯誤工夫して、いずれは達成できる力がある」と自信を持つことができました。自分の世界が広がりました。

3.キャリアの転機とスポーツとの出会い

通訳になる前のキャリアを教えてください。
また、その後どのような経緯でスポーツ業界と関わるようになったのですか?

● 橘学園高校、国際コース
 →クライストチャーチ(ニュージーランド)に1年間語学留学
 →人生初、海外で野球をプレイ(ニュージーランド)

●神田外語大学、イベロアメリカ言語学科スペイン語専攻
 →グアダラハラ(メキシコ)に1年間語学留学
 →メキシコ、ドミニカ共和国、アメリカ、キュラソー、で現地の野球を視察

●アルファーコーポレーション(ハリスコ州、メキシコ)
 →現地の工場、会議で通訳

振り返って、通訳を目指す上で「やっておいて良かった」と思うことは何ですか?

通訳になるというゴール(夢)を叶えるために、「どこで、誰と出会い、どのくらいの期間、どのような経験・活動をするかのプラン」をゴール地点から逆算しながら考えたことです。

4.スポーツ現場で求められる語学力と人間力

野球通訳として働く中で、語学以外に求められる力はどんなものだと感じますか?

まずは、野球の知識ですね。
通訳として球団に契約していただいたその瞬間から、野球の知識が必要となります。
ルールを覚えるのはもちろん、1つ1つの戦略やプレイのパターンなど、何プレイをどのような状況でどのような意図で実施しうることがあるかを、まず日本語で説明できることが大切です。
全てを最初から知っている状態で勤務開始となると、少しハードルが高いかもしれませんが、少なくとも市販のルールブックに載っている程度の内容は、あらかじめインプットしておくべきでしょう。

 また、野球の通訳に限らないですが、日本のことについて詳しく知っていることも必要不可欠です。
海外からはるばるやってくる方々を受け入れる者として、たくさんの準備が必要です。
交通、お金の知識(光熱費などの支払い、クレジット決済、バーコード決済、税金、年金、交通系ICのチャージ…など多々)、歴史、法律、文化、特産物、しきたり、日本に存在し海外には存在しないもの及びその逆、医療、健康保健…、学ぶことが多いですね。

 しかし、外国人選手やその家族のみんなから、これらの知識が豊富であると認識されるだけで、一気に信頼度が上がります。野球に関する知識や技術レベルは選手に敵いません。
その反面、彼らは来日当初、野球以外のことは基本的に何も知りません。選手たちが誰かに「助けてほしい」と思った時にいかに力になれるかが、通訳としての課題です。
さらに、選手が野球に集中できるようになり、より良い結果を出すためにも、生活面での通訳のサポートは生命線的役割を果たします。

スポーツの現場では、「ただ訳す」だけでは足りない場面もあると思います
印象に残っている出来事や対応の工夫があれば教えてください

日本人にとってはごく普通の言動、しかし外国語話者にとってはグレイゾーンであったりタブーに匹敵する言動が存在するので、そこで文化的衝突が起こらないように両者を繋いであげることですね。もちろんこの逆もあります。

現場で選手やスタッフとの信頼関係を築くうえで、心がけていることはありますか?

まず、選手の話を全部聞くことを意識しています。この時、自分の主観的な気持ちを無にして耳を傾けることが、時にポイントとなるのではないでしょうか。
ここだけの話、聞いていて「やれやれ…(苦笑)」と思うようなことを言われること、多々あります。
しかし、自分から言葉にして訴えかけると言うことは、本人にとってはどうでもよい内容ではないのです。
だからこそ、いかなる話題でも、心身ともに一緒に向き合ってあげることで、選手が通訳のあなたに対して、少しずつ心を開いてくれるでしう。

 また、アウトプットの面では、野球の話は絶対自分から話し始めないように私は心がけています。
これに関してはタブーではなく、私が個人的に意識ていることです。たとえ選手が1試合で10こ以上の三振を奪っても、試合を決めるホームランを打っても、せいぜいその直後に「ナイス◯◯!!」と最高潮のテンションで声かける程度で、それ以降は決して触れません。
選手がせっかくの至福のひとときを過ごしている時に、それを邪魔しないようにするためと、より多くの場面で友達もしくは ”Bro” のように人間味のある会話ができたらといいなと思うからです。

5.言葉の意味・語学を学ぶ理由

なぜ語学を学ぶことが、今の時代において重要だと思いますか?

新しい言語を習得することで、まず初めに、取得できる情報の量が増えてくるのは確かです。
どの言語にも必ず、得意とするトピックがあります。次の(A)~(D)の情報を探す時に何語での情報が多いと思いますか。
(A) NYメッツ、フアン・ソト選手獲得の勝因
(B) 北海道日本ハムファイターズの球団史
(C) 現在ドミニカ共和国在住のMLBプロスペクト候補の少年たち
(D) 古林睿煬投手(2025年ファイターズ入団)の台湾時代の成績・評論家からの当時の評価

 当然、以下のようになりますね。
(A) 英語
(B) 日本語
(C) スペイン語
(D) 台湾語

 日本語で(A)~(D)の全てを調べようとすることも不可能ではないですが、やはりローカルの情報には信頼度において基本的に勝てませんよね。情報源の拡大は、より信頼性の高い情報の収集に繋がるので、そのために海外の言語はとても有効です。

スポーツにおいて、語学が果たす役割についてどのように感じていますか?

各国の選手またはチームスタッフが、どのような経緯でそのスポーツに従事するに至ったを知るために大切な役割を果たしているのではないでしょうか。
2019年春、私がニューヨークでヤンキースの試合を観戦した時、6カ国の異なるルーツの選手たちが出場していました。フィールドでは、みんな縦縞のユニフォームに紺色のキャップを被り、同じルールに沿って同じ目的で野球をプレイしますが、彼らが野球に従事することに至った経緯はみんな違います。

 どのような文化圏で、どのような経緯で野球というスポーツに出逢い、どのような環境で練習してきたのか。これを理解し合うことで、チーム内の団結性が上がり、また人と人の間では尊敬や思いやりの心が生まれます。
根本的にお互いを理解し合うため、語学は大切な役割を果たしているのは、間違いないでしょう。

ご自身にとって「語学を学ぶ」とは、どういう意味を持つ行為ですか?

「○◯語を使って△△をしたい」と個人的に何か特定の目標があれば、その実現に合わせて自分なりに試行錯誤作戦を立てながら学ぶことが重要だと、私は考えます。

 言語とはコミュニケーションツールであり、語学とはこれを学ぶ学問のことです。学生さんも、野球選手も、消防士さんも、お医者さんも、政治家の皆さんも、飲み屋で飲んでいる人たちも、み~~~~~~~~んな、お互いの気持ちを言語というツールに乗せながらコミュニケーションを取ります。

しかし、み~~~~~~~~んなコミュニケーションを取っているとはいえ、言葉のチョイスであったり、声のトーンであったり、言っていいこと言うべきでないことの暗黙の了解は、その場によって変わってきます。
自分が目標としている場所では、日常的に何語でどのようなコミュニケーションが取られているかをイメージし、それに合わせて準備することが、僕が考える語学です。

6.未来への思いとメッセージ

今後、挑戦してみたいことや展望があれば教えてください

メジャー球団のスカウトになりたいです。
今通訳として、「現場の様子をよく見ながら状況を把握する目」を養いながら、日々選手が経験を積んでいく場面に立ち会っています。
この現場の状況を把握した上で、周囲の話者の気持ちを汲み取ろうとしながら翻訳するのです。

 「現場の様子を見る目」に自分の主観性と発展性を加えて球団に貢献できる仕事に関心を持ち始めたところ、次の私の目標として思い浮かんだのが「メジャー球団のスカウト」になることでした。
当然、英語とスペイン語を引き続き使うことになりますし、今まで日本のプロ野球で培った野球の知識や経験を生かしてできる仕事です。
また、数値上では見えない現実を球団に伝える役目としてもとても魅力的に思えます。
日本のプロ野球の現場に詳しいからこそ、挑戦できるステージであり、必ず達成できるよう今準備しています。

スポーツや語学に興味のある若い人たちに向けて、伝えたいことやアドバイスをお願いします

スポーツ業界に入って仕事に就くことで、今までファンとして見ていたものを違う目線から見ることができるようになります。

 幼少期は、「〇〇選手がホームランを打った!」「相手の〇〇投手に完封されて応援しているチームが負けた…」「〇〇選手がFAで入団してきた/ 退団していった」と、観戦しながら楽しんでいたものの、ある意味他人事として見ていました。

 しかし、実際にその業界に入ると、「どのような選手がこれから伸びてくるか」「各球団がどのようなシチュエーションにあって、何を補強しようとしているのか」「今はスランプの選手も、復調のために裏で少なくともどんなことは上手くやれているのか」などといった、ビジネス的視点で同じスポーツを見ることができるんです。
〇〇選手の調子が良い/悪いのにも必ず理由があります。
その〇〇選手が今よりも良い結果を残せるようになるために、選手含めみんなで一丸となって課題に取り組んでいくことで、他人事であったスポーツが自らのビジネスになるのです。
他にも様々な魅力がありますが、私が考える「ファンにとっての野球」と「業界人にとっての野球」の1番の違いはこのことなので、最後にお伝えしたかったです。